辨太郎日誌

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起承転結で説明する特許明細書

優れた発明も文章が稚拙であれば特許にならず.

稚拙な発明でも文章が巧妙であれば特許になる.

 

発明を文章で表現するときに、どのように頭を悩ませているのかを紹介してみようと思う.

発明を文章化するときの枠組みが存在しており、枠組みに従って発明を説明していけば、わかりやすく発明を説明することができるようになっている.

 

枠組みと言われても想像がつかないと思うので、起承転結をイメージしてほしい.

発明が起承転結の流れで説明されている.

 

起承転結がどのように機能しているかというと、

「起」で従来技術を特定して、「承」で従来技術を説明する.

「転」で発明に至らしめる理由を解析して、「結」で実施形態を説明する.

 

各パートの難易度は、結<起<承<転というのがわたしが感じているところ.

その理由は以下のとおり.

 

抽象的な発明の具体例を書くパートが「結」.

このパートを書くときは無心である.

ただただ淡々と具体例を書き下ろしいく作業を行う.

記載量が最も多くなり体力的にきついが、精神的には楽というのがこのパート.

 

「起」では、数多ある従来技術から、その発明にふさわしいであろう従来技術を見つけて書く.

「起」にふさわしい従来技術を見つけるのは意外と難しい.

最初でつまずいたら稚拙な特許明細書になってしまうから.

 

「起」で特定した従来技術を説明しながら発明へアプローチしていくのが「承」.

「承」で渾身の力を込めて従来技術を説明する必要はなく、ほどほどに書くのがいい.

従来技術を一生懸命説明したところで公知情報であり何ら新規な情報を開示しないから、ムキになる必要はない.

 

いちばん難しいのが「転」.

「転」は、それまで説明した従来技術の問題を指摘し、その問題がどのような理由なのかを技術的かつ定性的に分析するパート.

ここの分析が鋭ければ鋭いほど発明が明確になり権利範囲を正確に特定できる.

ここの分析が甘いと発明がぼやけて権利範囲の特定も甘々になる.

だから「転」は難しい.

「転」が完成すれば、あとに控える「結」は易しい.

 

「転」の位置づけを説明したあとは、その応用を説明してみよう.

「転」が詳細に書いてある明細書と、そうでない明細書がある.

後者の場合は、2つの理由があって、分析していない、理解していないから書いていない、書けないから書いていないという稚拙な理由と、敢えて書かないという戦略的な理由がある.

 

稚拙な理由は論外だが、敢えて書かないという戦略的な理由は、発明をぼやかした状態で上程するため.

特許明細書は特許審査官に発明を理解してもらうためだけではない.

競合第三者に対して有益な技術情報を無料で提供しているのである.

 

発明に至らしめる理由を分析した情報が書かれている「転」は、ここを読めば発明のエッセンスをも理解できる重要なパート.

だから敢えてその情報は書かない.

書いたとしても書きすぎない.

 

AIが特許明細書を書く時代と言われることに懐疑的である反面、ぜひとも発明の文章化を手伝ってもらいたいという好奇心.

AIが起こした明細書を分析してなるほど感心してみたい.