辨太郎日誌

特許・商標・意匠・著作権などなど知財を絡めて

特許原簿も万能ではない

裁判所や税関、警告書を作成するときにも必要な大事な書類が特許原簿.

特許料を納付すれば、それが特許原簿にも反映されるはずなのですが、

特許原簿に反映されない状態が約一年続いています.

 

事情を知っている当事者はよいのですが、何も知らない第三者は困ります.

特許原簿を確認しても特許料の納付が記載されていないからです.

特許料が本当に納付されていないのかと言えば実は納付されている.

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ステータスを見ると年金納付書が2回提出されています.

その後、却下理由が通知され、10ヶ月近く経って却下処分がされています.

これだけを見ても一体何が起こっているのかさっぱりわかりません.

特許庁に確認してみたところ、最初の年金納付にミスがあると教えてくれました.

あとの年金納付は正しいのに、最初の納付手続きの処分が確定しないと、納付状況が原簿に反映されないという説明でした.

年金が納付されていても、原簿に反映されない状態が1年近く続く.

これはさすがにまずいと思います.

 

税関からは原簿を早く提出してくださいと督促され、その度に今回の説明を何度もしなければなりません.

本当に権利があるの?

疑われても仕方がありませんね.

迷惑駐車と特許権侵害の違い

横浜地裁の敷地内に放置されたクルマの処分が話題になっています。

kuruma-news.jp

私有地にクルマを放置することは他人の財産の侵害に過ぎないから警察は動けない.

特許権や商標権の侵害も他人の財産権の侵害に過ぎない、にも関わらず、こちらは警察が動いてくれます.

私有財産であるにも関わらず警察が動いてくれる知的財産は、権利侵害に対して刑事罰が規定されているからなのですが、これを知った駐車場の所有者は不公平感を抱くと思います.

 

さて裁判所の敷地内に放置されたクルマをどのように処分したのかというと、庁舎管理権に基づいてクルマを撤去したというのが今回の顛末です.

庁舎管理権という聞き慣れない権利ですが、例えば寺院や博物館で写真撮影を禁止するための施設管理権と聞けば分かりやすいかと思います.

 

庁舎管理権に基づいて違法駐車の撤去が可能というのも怪しい気がいたしますが、裁判所が違法行為をするはずがないので合法という判断なのでしょう.

ではもし、個人の私有地に放置されたクルマを施設管理権に基づいて撤去した場合は、それは合法なのかどうか.

 

私有地に放置されたクルマを勝手に撤去できないと言われているにもかかわらず、庁舎管理権ならOKで施設管理権はNGというのは、これもまた不公平ですね.

 

 

権利侵害に対して刑事罰が規定されています.

 

 

 

完成品と部品の価格逆転

部品を積算して完成品の大凡の価格が決まるのだから、

完成品より部品の価格が高いということなどありえないはず.

 

先日、クルマの買取査定を頼んだら、

10万円という査定額を提示してきたところがありました.

それが30年前のクルマと聞けば、そんなの当たり前というかもしれません.

 

すでに純正部品の製造も終了しているこのクルマはマニアの間では人気があり、

故障した場合の部品の入手は容易ではありません.

部品確保のために部品取り用の車両を用意している猛者もいます.

 

10万円の価値しかない完成品であっても部品の価値はそれ以上.

 

特許権侵害における損害賠償額の算定基準の一つに侵害品の価格を考慮する方法があります.

侵害品の算定額を高くするために、部品よりも完成品で権利を特定するというテクニカルなこともやっています.

 

しかし特殊な環境では、完成品よりも部品の価格の方が高くなる.

こういうことを経験すると、必ずしも完成品で権利範囲を特定することが良いとは限らないと思うわけです.

 

意匠実務においても、部品と完成品という議論があります.

部品より完成品の方が高いという「常識」が、この判断を誤らせることもあります.

完成品と部品についての意匠議論は別記事でも書いているのでそちらもどうぞ.

 

tanakablg.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

古本の売買は中古車や中古不動産と何が違うのか

「古本の売り時」という番組がNHKで放映されたらしく、それに対して様々な意見がSNS上に飛び交っているようです。

www.j-cast.com

 

書籍の中古品売買は著作権に関する問題としてもよく話題になります。

そして、他の中古品と何が違うのか、著作物は特別に守られるべきだ、などという意見が出ます。

結局のところは、古本の売買だからと言って特別に扱われるわけではなく、他の中古品と同じという結論に落ち着きます。

著作権と古本問題をリンクさせると、どうしても話が複雑になってしまうのですが、SNS上のコメントの一つに、すごく純粋な疑問が上がっていました。

気持ちはわかるし作家の応援で新品を買うというのも理解できるけど、中古車とか中古不動産とかとどう違うのか自分は説明できないな

 

中古車や中古不動産と同列に扱われるのはけしからんという考えもあるでしょうが、行き着く疑問はこれです。

 

何回も使うものは手元においておきますが、それ以外のものは手元を離れます。

すべての書籍が手離れが良いというものではありませんが、推理小説を何度も読む人はいないでしょう。

 

書籍の扱いについては図書館もやり玉に挙げられています。

図書館や漫画喫茶みたいな所への新刊入荷についても、せめて発売二週間後とかにならんもんですかね

これは同感です。

専門書を揃えることに意義はあっても、発売間近の文芸書を、しかも大量に揃えているところもあって、これを著作者が見たら卒倒するだろうと思わざるを得ません。

 

書籍の扱いというのは、古本売買にしろ図書館問題にしろ、なにかスッキリしないモヤモヤが残ります。

意匠の特定の仕方で権利行使のしやすさも変わります

将来の権利行使を想定しながら、どのような意匠の特定が良いのかについて考えてみます.

 

意匠では、物品面から意匠を特定します.

物品が非類似なら意匠は非類似となり権利は及びません.

例外として、利用関係が認められれば、非類似物品であっても意匠の権利を及ぼすことができます.

とはいえ、利用の立証は容易ではありません.

 

部品の意匠権で完成品に対して権利を及ぼす場合、部品を装着する場合、必ずといっていいほど、部品の一部が隠れることになります.

意匠は視覚性が求められるので、部品の一部が隠れ、外部から視認できない状態では、利用が認められることは難しい.

特に、意匠の要部に一部が隠れた完成品に対しては、もはや利用の主張は認められないと考えた方が良いです.

 

ではどうすれば良いのか、考えられる意匠の特定は以下の3つです.

 

1.部品の意匠権を取得する場合は完成品に取り付けられた状態を想定し、露出する部分を部分意匠とする意匠を検討する.

 

2. 部品自体の意匠ではなく、部品が取り付けられる完成品を物品とし、その部品部分を部分意匠とした意匠を検討する.

 

3. 部品を取り付けた完成品を物品とした通常の意匠を検討する.

 

1から3の意匠は、外部に露出する部分を以て意匠の形態を構成することができます.

したがって形態の類似は立証しやすくなります.

 

さらに、2と3の意匠のように、完成品を物品とする意匠では、物品類似の立証も容易なので、立証負担を軽減することができます.

 

意匠では、特許のように将来の侵害態様を想定しながらどのような権利を構築するべきかということについて余り検討されていない気がします.

どのように意匠を特定すれば権利行使がしやすくなるのか、そういう視点で意匠を観察してみると、特許とは違った「技術」が必要です.

 

押印なしの委任状はやり過ぎ

特許庁に提出する書類の押印廃止は歓迎したいのですが、これに委任状も含まれるとなるととても違和感があります。

出願時に委任状が要らなくなったときもとても驚いたことを覚えていますが、提出する委任状に押印が不要となると、そんなので委任状の機能があるの?と思ってしまいます。

 

そんないい加減?な委任状でも提出は原本が求められます。

スキャンコピーでは駄目なのですが、これは如何なる理由なのか?

 

委任状への押印を不要にした理由として、

Q2-4. 委任状の記載事項は、委任者の個人名・代表者名も含めて、全て印字(タイプ印字を含む)でよいことになったということか。

A2-4. 委任状は、委任者と受任者の間の合意の下、作成されるべきものであり、かつ、代理人が自己の責任において提出することになるため、特許庁は、これを真正な委任状として受理することになります。

偽造された委任状が提出されても特許庁は関与しません、というわけです。

それなら委任状制度自体が要らないでしょう、と突っ込みたくなるわけです。

 

押印廃止に伴い、外国人の署名も不要となりましたが、署名がない委任状というものを外国人が理解できるのだろうか、と思ってしまいます。

Q2-5. 押印(外国人(外国に住む日本人を含む)の場合は署名)の無い委任状は、どのように原本確認をするのか。

A2-5. 代理人が提出する委任状は、委任者と受任者の間で合意し、作成されたものとして、疑義がない限り、真正な委任状として取り扱います。

押印が不要となるのも段階的で、令和3年6月12日までは押印が要る委任状や要らない委任状が混在しているという現場泣かせな状態でした。

 

すべての委任状に押印が要らなくなったと思っていたら、国際出願関係は対象外という一文を見て発狂しそうになりました。

委任事項には、国際出願に関する手続きも記載しているので、押印不要にしたければ、この一文を記載できず、かと言ってこの一文がなければ、国際出願があった場合は再度委任状をもらわなければなりません。

 

当事者同士の契約の信憑性という側面からみると、すべての手続きには委任状が欲しく、しかも押印は必ず、と思っています。

現在において委任状が必要な手続きというのは、不利益行為を伴う手続きです。

大事な手続きを押印なしの委任状で実施して、あとでトラブルになったときに、その矢面に立たされるのは代理人です。

そんな手続きを頼んだ覚えはない、と言われたとき、押印がある委任状があればすぐに反証できるますが、押印がない委任状では、偽造の可能性を払拭できません。

 

そしてもうひとつは本人確認の厳格化です。

押印を廃止して簡素化できる手続きと、その真逆の手続きが増えてしまいました。

押印が必要な書類については、実印+印鑑証明という最も面倒な本人確認方式の採用です。

 

印鑑証明制度がない外国人は署名でよいとなっていたりで、これは内国民に対する手続きの不平等です。

 

個人的には、全ての書類に押印を貰いたいのですが、依頼者の負担を考えると、そうも言っていられません。

あの事務所ではそんな書類は求められなかったと言われたときに、知らずに書類を求めたのか、それとも知っていながら、それでも書類を求めたのかでは、大きな違いだからです。

域外適用で模倣品を差止めるスゴ技

模倣品の個人輸入を取り締まるための改正案の予想は完全に外れました。

 

まだ改正法が発表されていないので推測の限りだが、おそらく間接侵害規定を変えることになるだろう。

「〜その商標が商標権者の許諾を受けて付されたものでないことを知りながら輸入する行為」が商標権の侵害とみなす行為として追加されると思う。

この「〜知りながら〜」は、著作権法にも規定された経緯があるので、著作権法を見倣った形で特別に新しい立法方法ではない。

tanakaipr.com

間接侵害に目をつけるだろうから、だとすれば著作権法に倣って「知りながら」の輸入を侵害とみなすだろうというのが当時の目立てでした。

 

ただ著作権と違って商標法は産業立法です。

業としての輸入ではない純粋な個人の行為を規制しては法律の根幹が崩れてしまいます。

 

さて実際に法改正が施行され、その内容を見たときはびっくりしました。

予想が外れたということよりも、法の域外適用を取り入れたことに驚きました。

域外適用の可能性についても当時の自分も予想はしていました。

 

商標法は、日本の法律の域外適用が可能にあれば、個人輸入を規制するという無理なことをしなくても済むようになる。

 

改正商標法は、「この法律において,輸入する行為には,外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれるものとする。」、輸入の定義を変えました。

 

個人輸入という言葉のとおり、輸入の主体は日本にいる個人です。

ただし、業としての輸入ではない個人の輸入に対して侵害を主張することはできません。

あくまで侵害主体は、事業者でなくてはなりません。

 

国外の事業者を輸入行為の主体として模倣品の輸入を権利侵害とする、言うのは簡単ですが、外国にいる侵害主体をどのように商標権侵害として「逮捕」できるのか、という疑問があります。

外国に対して当然ながら日本の執行管轄権は及ばないからです。

 

執行管轄権の制約から、いくら日本の法律に違反したからといっても、外国にいる人や企業に対して強制捜査や逮捕をすることはできません。対象となる人が日本に入国してくるのを待つか(全くの余談ですが、法案作成作業の中で、この論点を勝手に“成田空港理論”と名付けて議論していたのを思い出します)、どうしても必要な場合には、あくまでも外国の当局にお願いしてその当局にやってもらう(その上で身柄などを引き渡してもらう)ということになります。

note.com

 

外国にいる侵害主体に対してどのように執行するかというのはとても大変なのです。

 

ところが関税法に基づく輸入差止めは、侵害主体が外国にいても執行管轄権の問題は発生しません。

外国にいる事業者が改正法による「輸入」を行った場合、関税法は商標権を侵害する「貨物」を止めるだけです。

輸入した者を処罰するのではなく、あくまで「貨物」が侵害の対象だからです。

 

tanakablg.hatenablog.com

 

今回の法改正は、個人輸入を税関で差止めるため「だけ」のとてもよく練られた法改正なんだと改めて感心しました。

模倣品の個人輸入はモノを憎んで人を憎まず

これまで差止めの対象ではなかった個人輸入についても差止めの対象になってから、いままでは止まらなかった貨物が止まるようになってきています。

 

今回の法改正が施行されて、本当に「個人輸入」が止まるのかと懐疑的でしたが、実際に自分のところに届く認定手続開始通知書をみると、たしかに止まっています。

 

差止めの手続きは複雑で、業としての輸入、つまり商業輸入を止めることを前提としています。

商業輸入なので輸入される貨物の数も多かったり、課税価格も高くなるのが普通です。

 

いままでだったら個人輸入は差止めの対象外だったので、1000円程度の1個や2個の貨物の輸入は、外形上、個人輸入と扱って差止めの対象にならなかったはずです。

 

ところが今回の法改正で、「個人輸入」も差止めの対象になったことから、1個や2個の貨物の輸入も差止めの対象になり実際に差止めされています。

 

税関職員もとても大変だと思います。

いままでスルーできた極少量の貨物の輸入も差止めの手続きを採らなければなりません。

差止めの回数が増えても税関職員の数が増えるわけではないので、現場は相当疲労していると思います。

 

かくいう私も、これまではなかった1個や2個の貨物について意見書を提出することになり、事務作業が増えました。

 

さて個人輸入を止めることになった法改正の内容をみたときは、自分が当初予想していた内容と違っていたため意味を理解するまでに時間がかかりました。

立法技術としては優れているのでしょうが、この法律に基づいて個人輸入を差止めるのは無理がある、と思いました。

 

改正の内容は「輸入」の定義です。

輸入の主体を国内の者に加えて国外の者も対象にしました。

 

国外の者を日本の法律に基づいて侵害主体にすることにとても違和感があります。

 

今回の法改正の対象になって法域は、意匠法と商標法ですが、意匠法も商標法も侵害するのは、輸入するという「行為」です。

そして「行為」を行った者に対して、刑事罰等のペナルティを課しています。

輸入行為をした人に対して刑事罰もあるわけですが、例えば中国にいる者に対して逮捕状を請求して逮捕する、なんてことができないのは明らかです。

 

そうすると今回の法改正は、個人輸入を差止めるためだけ、という見方ができます。

なぜなら関税法が侵害とするのは輸入行為ではなく「物品」だからです。

 

人が悪いのではなくモノが悪い、だから悪いモノの輸入を止める、というのが関税法です。

 

もっとも関税法違反で処罰される対象は、モノではなく人なので、貨物を輸入したあとの事後調査をどうするのかという点にも興味があります。

 

立法的には上手に纏めた個人輸入のための法改正ですが、輸入差止め手続きの実務にも矛盾を感じます。

 

侵害となる貨物が個人輸入されるとき、輸入をした個人宛てに税関から通知がきます。

今回の法改正で侵害する主体は、外国にいる者なのに、なぜ侵害していない個人に対して通知がくるのだろうか、という疑問がでてきます。

通知を受けた「個人」が、何らのアクションを起こさなければ貨物の通関はできません。

 

さらに、外国にいる者も、事業として日本へ貨物を送っていなければなりません。

例えば、輸出者が個人名の場合、事業者なのか非事業者なのかは不明です。

それでも認定手続は開始されています。

 

輸入者の代理人の立場からすると、個人輸入については実質反論の機会が担保されていないも同然です。

 

実際のところは、対価の支払いを以て輸出しているのでしょうから、仮に輸出者が個人であっても事業者と見なして差し支えないのでしょう。

 

ただ本来であれば、侵害行為を行っている輸出者に発するべき通知を、侵害していない日本の個人に通知しているというのは、お門違いな気もいたします。